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第12話 ビキニアーマーの王女

Auteur: 青砥尭杜
last update Date de publication: 2025-02-03 15:23:55

「マジェスタ様! ダイキ様の御子息はこちらにいると聞きました!」

 弾む声で一方的に用件を口にするビキニアーマーを身に着けた女性は、意志の強そうなアーモンド型の目をカイトに向けるや、

「あっ! あなたですか!」

 と張りのある声を上げた。

「ヴェルデ王女殿下……なんという恰好で……」

 マジェスタが呆れ返った顔で発した咎める声に、ペロッと小さく舌を出すだけで返したヴェルデは、ツカツカとカイトの目の前まで近寄った。

 ヒールの厚いブーツを履いているヴェルデの目線は、平均よりやや高い程度とはいえ百七十四センチはあるカイトとほぼ同じ高さだった。

 光沢すら帯びて見えるパンッと張ったヴェルデの豊かな胸の膨らみにどうしても目が行ってしまうカイトは、異世界に来てから感情と行動に抑制が効いていたはずの自分が、ここにきて丸っ切り動揺してしまっていることに驚きを持った。

 動揺を隠せないカイトへ快活な笑みを向けたヴェルデは、

「はじめまして。わたくしはヴェルデ。王太子ダンドラの長女で、十八歳です」

 と自己紹介を述べながら右手を差し出して、カイトに握手を求めた。

「あ、はじめまして。えー、カイト・アナンです。二十歳です」

 わずかに上擦ってしまった声のトーンを抑えようとしながら答えたカイトが、微苦笑を浮かべながら握手に応じてヴェルデの右手を握ると、ヴェルデは満面に笑みを浮かべてみせた。

 こんもりと主張する露わになった胸元へ視線が行ってしまわないように、カイトは眼球のコントロールに意識を集中させた。

 ビキニアーマー。

 最近でこそコスプレにおけるファンタジー作品の衣裳として、実在の女性が身に着ける姿も見受けるが、基本的にはファンタジー作品の世界でしか存在しえないビキニとアーマーという相反する性質の融合。

 ファンタジーが産み出した倒錯の結晶とも言うべきビキニアーマーを、ヴェルデの肌から匂い立つ香水の薫りすら届く距離で目の当たりにしたカイトは胸のうちで喝采した。

(ビキニアーマーだよ! やっと、やっと出たんだ。異世界ものらしいファンタジーならではの恩恵が今、目の前に……!)

「カイト様。あなたが、わたくしの夫になられるのですね」

 ヴェルデが快活に言い切った言葉で我に返ったカイトは、

「え!?」

 と素っ頓狂な声を上げてしまった。

 ヴェルデの口から出た「夫」という想定外の単語を処理できず困惑するカイトの様子を見かねたマジェスタが、

「ヴェルデ王女殿下……カイト閣下がお困りです」

 と助け船を出した。

「え? そうですか? わたくしはカイト様から、とても好意的な視線を感じますけど。とくに、そう胸のあたりとか」

 ヴェルデがしれっと口にした言葉でスイッチが入った赤外線ヒーターように、カイトの顔がみるみる赤くなる。

「あはっ。新鮮な反応ですね。カイト様は特別なんですから、堂々とご覧になってよろしいんですよ」

 ヴェルデは蠱惑的な笑みを浮かべながら、カイトを惹き付けるように姿勢を前傾させた。

 見事に肉感的でありながらも、若さの溌剌とした明るさを兼ね備えたヴェルデは、カイトの健康な性欲を刺激するには充分すぎる魅力を放つ女性だった。

「……いえ、失礼しました」

 カイトが視線を逸らすように目を伏せたのと同時に、マジェスタがヴェルデに声をかける。

「ヴェルデ王女殿下。戯れはそれぐらいになさってください。それに、その格好はなんですか」

 微かに語気を強めたマジェスタに対し、ヴェルデは悪びれる様子もなくすらっと答えた。

「この実用を無視した前衛的な甲冑は、カイト様がおられた世界で男性が好むものだと、ダイキ様が教えてくださったものです。違いましたか? カイト様」

「あ、いえ、違いませんが……」

 カイトの中で形成されつつあった父親のイメージが大きく音を立てて崩れた。

 同時にビキニアーマーがこの世界の標準仕様ではなく、父親が持ち込んだものだと知ったカイトは途端に落胆した。

(俺の父親は、とんだエロおやじだった……)

 カイトの口から一応の肯定を得たヴェルデは、微笑に安堵の色を含ませた。

「よかったあ……恥ずかしい思いをして特注品を着た甲斐がありました。でも今は、マジェスタ様の雷が落ちる前に失礼するといたしますね。また後で、ゆっくりと、ね、カイト様」

 カイトに向けてウインクをしてみせたヴェルデは、くるっと身体の向きを反転させて書室を出て行った。

 半ば露わになっている、ゆで卵のような丸みと照りを持つヴェルデのヒップはカイトにとって扇情的すぎた。

 カイトはつい目が行ってしまうのを懸命にこらえた。

「驚かれたでしょう。ヴェルデ殿下は明晰なのですが、いささか奔放なところもありまして……」

 呆れた口調で漏らすマジェスタに対して、カイトは小さく首を横に振ってみせた。

「いえ……快活でとても魅力的な女性だと感じました。でも、気になる点はそこじゃなくて……」

 カイトが含ませた疑問を当然のように理解したマジェスタは短く息を吐いた。

「結婚うんぬん、についてでございますね」

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